子ども
新任教師として 希望を胸に向き合った子どもたちは「子ども」に見えた。 |
血気盛んな青年教師時代 彼らは戦うべき「敵」に見えた。 |
中堅教師と呼ばれるようになったころ 彼らは「人間」に見え始めた。 |
そして教師生活も残り少なくなった今 |
彼らが再び「子ども」に見え始めている。 |
ただし 同じ時空を共に生きる「仲間」の一人として・・・・ |
子どもたちが変わったのではない。 |
私が変わったのでもないと思う。 |
彼らが生きるために背負わなくてはならない荷物と 私のそれとが |
何一つ変わらないという自明の理に ようやく気づき始めたことによる。 |
高々2、30年先を生きたことで手に入れた知識や経験を振りかざして |
立ち向かう子どもたちへの武器にはすまい。 |
唯一彼らと渡り合える武器があるとすれば それは |
おれもお前も ともに今を生きる同士であるという思いだけ・・・・ |
何だか頼りない 心細い武器ではあるが 伝えるものはそれだけでいい。 |
ひとりでもいい 自分のことを愛してくれる人がいれば 人は生きていける。 |
巣立ち
人にはだれも 巣立ちのときがある。
すべての懐かしさと訣別し
包みこんでくれた心優しきものと離別して
たった一人 勇気をもって一歩を踏み出さなければならないときがある。
だれもが一度は にじんでくる涙をぬぐいながら
自分を愛してくれた多くの人に別れを告げる日が来る。
力の限り駆け抜けた青春の日々が
かけがえのない熱い思いで満たされているのも
今思えば
あの巣立ちのときがあったからかも知れない。
旅人
かつて 生きることの意味を追い続けた 放浪の俳人がいました。
禅僧となり、全国を行脚しながら
これ以上簡潔には表現できないぎりぎりの一言に
生命をかけた人です。
酒と放浪に生命を縮めながら産み出された その句のなかに
滅びゆくものの叫びにも似た 魂の蠢きを感じるのです。
すべての生あるものが輝くように躍動する中で
ただ一人 枯れゆく己の姿を冷徹に見つめ続ける執念は
時をこえて私の胸に響きます。
まっすぐな道で さびしい
種田 山頭火