刻む
刻む
人は生きてきた証を その顔や手に刻む
年とともに増えるシワや肌の衰えは
人が乗り越えてきた 数知れぬ障壁の証
少なくとも 恥ずべきものではない
長年 土に生きた老農夫の顔を見よ
魚と格闘した老漁夫の手を見よ
何ものにもゆるがない美しさとは
確かに生きてきた証が見えること・・・・・・・・・
色鮮やかな衣装や 豪華な装飾品に飾られた
見せ掛けの美には目をつむり
私はまちがいないく 私であったと胸を張れるものがあるとしたら
それは 私とともに歩んできた顔や手であり
その顔や手を動かしてきた 私そのものではないか
刻むとは・・・・
掘ってそこに何かを埋め込むということ
埋め込まれたものが見える顔でありたい
いばらの道
ほんとうにつらいとき
人は 意外にもやさしくなるものらしい
自らを極限のやわらかさの中に置かないと
容赦なく押し寄せるいばらから 身を守ることができないからだ
もちろん 何本もの刺は 身に突き刺さるが
そのやわらかさが 致命傷から身を守ってくれる
人がやさしく見え始めたとき
その人の背中に担われる重荷が見える者でありたい
挽歌
どこにでもありそうな話がひとつ
路傍の石のように転がっている
耳の奥のどこか遠くで 昔聞いた汽笛の音が流れ
たぐり寄せることができない その距離の向こうに
その人は 行ってしまった
ただそれだけのこと ・・・・・・・・・
ただそれだけのことなのに
胸の奥がツンと痛くなる
今 どこかで
水晶のぶつかる音がした