
幸せ
| 生きることは汚れていくことだと詠った 夭折の詩人がいました。 |
| 研ぎ澄まされた無垢な魂は 日々の暮らしが容赦なく大切にしたい |
| と思うものを剥ぎ取っていく残酷さに耐えられなかったのでしょう。 |
| そんな感性は はなから持ち合わせない凡人は |
| 日々の出来事に一喜一憂しながら 年を重ねていきます。 |
| 時折 生きることの切なさを感じることがあっても |
| 「世の中 こんなものさ。」と言い聞かせる口実を探しています。 |
| 身に着く汚れと引き換えに |
| 味わい深い小さな幸せもあるということを 知っているからでしょう。 |
| 凡人にとって 生きるということは |
| 押しのけることの叶わない汚れと折り合いをつけながら |
| 小さな幸せを蓄えていく営みなのです。 |
| 藍斗へ |
| 藍は野草でありながら 深い味わいを放ち |
| 白布を自在に染めぬく力を持つ |
| 斗は南天に輝き すべての生を司る星 |
| お前の前途に悠久の祈りをこめて |
| 父と母は お前に藍斗と名付けた |
| 藍のように 人の心に染み込む味わいを磨け |
| 斗星のように天高く輝き 高邁な志を抱く男子となれ |
| それが お前の誕生を心から待ちわびた者への |
| 最高の贈り物だ |
| ほんとうに美しいと思うものは |
| 自分がそう感じた瞬間から |
| 美しくなるための成長を始めていた。 |
| 人の心は いつも何かで満たされているもの |
| 空白はない |
| 何かが失われ 空白ができたら |
| 黙っていても 埋めようとする力が働く |
| 寂しいときに ある人を想うのは |
| 心が 空白を埋めようと動いている証拠だ |
| 手の届かないところに実る果実は |
| いくらおいしそうに見えても口にははいらない。 |
| ただ その味を思い描いて見るだけだ。 |
| 本当に口に入れたければ |
| 思い切って木を切り倒せばよい。 |
| 切ったあとの始末をきちんとする勇気があるのなら |
| それも一つの方法だろう。 |
| 手の届かないところにあるものを手に入れるには |
| 眺めていないで 斧を取れ。 |
| 人の心に残る歌には |
| その歌に重なる人生の大切な記憶が溶け込んでいる。 |
| その歌とともに息づいていた |
| かけがえのない日々が間違いなくあったのだと |
| 時々思い起こさせてくれるから |
| 人は自分の来た道を振り返りたくなると |
| そのとき聴こえていた歌を探している。 |
| 歌は長い道のりに立つ道標であったと |
| 気付くのもそんなときだ。 |
| 色は重ねる数が増えれば |
| それだけ灰色に近づき やがて黒となる。 |
| それは 単一の色が他色との融合を強いられることへの |
| 無言の抵抗である。 |
| 色を混ぜても 澄んだ味わいを生み出せるのは |
| せいぜい二、三色までだ。 |
| 多くの人間と無理に溶け合うことを強いられていると |
| やがて人間も灰色になってしまう。 |
| 汚れた手で きれいな花を摘んでも |
| 花は怒らない。 |
| きれいな手で 汚れた花を摘むことを |
| 人は避けたがる。 |
| 洗えば跡形もなく消える汚れなのに |
| 「今」が気になる。 |
| 本当に醜いのは 手についた汚れではない。 |
| 他者の心に想いを馳せられない 心の貧しさである。 |
| 風見鶏は風上に頭を向けるから 役に立つ。 |
| こいのぼりは 風上に顔を向けるから泳げる。 |
| すべて屹然と風上に向かって立つものは美しい。 |
| それはきっと |
| 目に見えぬ風の流れをいち早くつかみ |
| 流れてくる先にあるものを見据えようとする意思が見えるから・・・ |
| 流れ来るものに尻を向けてばかりいると |
| 頭はやがて風の匂いを忘れてしまう。 |
| 自分だけの「美学」と呼ぶにふさわしい主張を持っていますか |
| 美学とは |
| 見るもの 聞くものに付加する価値の高低を決める基準です |
| 他のことには妥協しても |
| この一点だけは干渉を許さない |
| そんな頑固な自分らしさ・・・・・・ |
| それがあるために |
| 損をしたり 遠回りをしたり 傷ついたり |
| もう捨ててしまおうと何度も決めたことです |
| 捨てきれずに いまだに持ち歩いているのなら |
| もう少しの間 大事にしてみましょう |
| 変にものわかりのいい人間にはなりたくありません |
| 厄介な荷物ですが これが私だと言える荷札をつけて |
| なりふり構わず生きていけたらいいと思います |
| 鳥のさえずりを聞くのは 気持ちがよいものです。 |
| 満開になった花を見ていると 心が洗われます。 |
| しかし 人の目には心地よく見えるそれらが |
| 実は彼らの 生きるための懸命な営みだということを |
| 重ねてみるといいでしょう。 |
| 当たり前に生きている自分の姿が もしかすると |
| 誰かを元気づけているのかもしれません。 |
| そう思って 今日という日を |
| 当たり前に生きてみたいと思います。 |
| あなたと私との距離は |
| 思ったほど遠くはありません。 |
| 私のものさしの目盛りは |
| あなたに教えられるものが増えるたびに |
| 減っていくからです。 |
| ゼロになることはなくても |
| 温もりが感じられるところまでは |
| 近づけそうです。 |
| 師と呼ぶと叱られそうですが |
| 私はそう思っています。 |
| 何か崇高なものを手にいれようとすると |
| なぜか自分のみすぼらしさが際立って見えてくる。 |
| もっと厳密に言うと |
| 自分のみすぼらしさに気付いて 初めて |
| はるか彼方に崇高な輝きが見え始めるのかも知れない。 |
| いずれにせよ |
| 美しく輝く対象が脳裏に去来し始めると |
| それを手にするに値する自分であるかという問いが生まれ |
| 少しでも自分を高めようとする努力が始まる。 |
| 結果の如何を問わず |
| これが恋の生まれる方程式だ。 |
| 努力すれば報われる・・・・と言うのは、あれはウソですね。 |
| 努力だけなら 一応だれだってするものです。 |
| 報われるためには |
| 努力を貫く意思がなくてはなりません。 |
| 報われるまで貫く、鉄壁の意思です。 |
| 相手を間違いなく倒すには |
| 急所に一撃を加えるしかない。 |
| 相手と間違いなく絆を結びたいなら |
| 自分の急所をさらして向き合うしかない。 |
| 無防備になるということは |
| 相手の呼吸までをも受け入れる距離に立つということ。 |
| それができない相手なら |
| はじめから遠い人だったのだと思うほうがいい。 |
| 雨の音には |
| それに打たれるものの反骨の声が溶け込んでいる。 |
| おまえなんぞに負けるものか・・・・・・ |
| 名もない草や虫や石ころにも彼らなりの生活があり |
| それを脅かすものへの無言の抵抗がある。 |
| 雨の音が強くなったら |
| 耳を澄ませてみるといい。 |
| ジタバタしないで 成り行きに任せるのも |
| 難局を乗り切る一つの方法だろう。 |
| 力のかぎり抗うのもいい。 |
| ただ一つ忘れてならないのは |
| いずれにせよ 眼前に迫る危機の正体を |
| 間違えずに見抜いておくこと ! |
| 何が今 自分をうろたえさせているのか・・・・ |
| その正体を見まちがえると |
| 相手を断ち切るはずの刃が自分に振り下ろされる。 |
| いくら絶妙の風味があるワサビでも |
| それを主食として飯を食うわけにはいかない。 |
| どんな名優をもしのぐ演技で名を売る脇役も |
| 主役に取って代わることはできない。 |
| ワサビにはワサビの |
| 脇役には脇役の生きる場がある。 |
| 彼らがそれを知って ある一線を踏み越えないから |
| 人はワサビの風味に舌を鳴らし 脇役の名演技に酔いしれる。 |
| 分相応とは |
| 決して越えてはならない一線だけは踏み越すまいと構えて |
| 自分を求めてくれるものへ |
| 自分にできる最大級の演技を披露することだ。 |
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