貴方へ

    わたしが 貴方を大切な人だと思うのは
    ともに共有した時間の温もりが
    今のわたしを支えていると思うからです。
    人は思い出だけでは生きていけないと言いますが
    小さな思い出でも それがなくては 
    明日に一歩を踏み出す勇気が湧かないときもあるのです。
    たくさんのものを 貴方からもらいながら 
    何のお返しもできないまま 今日まできてしまいました。
    貴方のおかげで あの時と同じ厳しい状況のなか
    なんとか元気でやっています。
    貴方にも 両手に持ちきれない幸せに包まれた毎日が
    きっとあると信じて 今日も生きてみます。


 ずいぶん昔に出会ったのに 今も心に生き続けている・・・・・・・
そんな人はいませんか
異性であれば それは淡い恋心
同性なら 今でも自分をシャンとさせてくれる人
我を見失うような荒波の中で その人の差し伸べる手をつかみ
 這い上がることができた日があった・・・・・・
消えることのない刻印のように 鮮明に刻まれたその人の姿が
自分史の1ページにひっそりと残っています
めったに開くことのなかった 古いアルバムを開いて
過ぎていった時の流れを 指でたどっています




置き忘れてきた荷物を
一つ一つ確かめながら その在り場所に思いを馳せる・・・・・・
取り戻すことはもはや 叶わないが
せめてその姿かたちを しっかりと記憶に留めておきたい
今日まで生きてきたという事実が いとおしく感じられ始めたら
ぜひ そうしようと思う
それが「わたし」という人間の 居場所を決める車庫証明になる。



 主要な道路には、必ず迂回路と呼ばれる回り道があります。
要のその道路が寸断されたり、通行できなくなったとき、
避難経路として使うためです。
山道には、険しい直登ルートとは別に
もう一つ「巻き道」とよばれる回り道があります。
時間はかかりますが、直登ルートにはない安心感があります。
回り道・・・・・・・・それは
用意されているだけでほっとする家庭の常備薬のように
いつもは通らなくても 心の隅に覚えておけばいい道なのです。
この道をたどっても ゴールには着けるということも・・・・・


年を重ねると 好き嫌いが鮮明になる。
好きでも嫌いでもないという 中途半端な関係に疲れるからだ。
当然 他人からも同じ目でみられることになるが
そんなことは知ったことではない。
無理をして 好きですという演技を続けるだけの
余力が少なくなってきたと感じ始めたなら
素直に演技を止める・・・・
ただそれだけのこと。おおげさなことではない。


おせっかいはやめて
そっとしておきましょう。
輝くべきものを持っていれば
黙っていても光り始めるし
枯れるべきものなら どんなに手を尽くしても
やがて枯れる・・・・・・・・・
それが 地表の掟です。
気にはなりますが 
貴方の善意が 無駄な徒労となって終らないように
そっとしておきましょう。
それが一番だと 思います。



自分にはこんな能力があるんだと 
だれかに知ってもらいたいと思うことはありませんか。
だれかに自分を認めてもらいたいという欲求は
自然なもので 決して恥ずかしいことではありません。
ただ 一つ気をつけたいのは
自分という人間の押し売りにならないことです。
どんなにいい商品でも 押し売りをされるとその途端に
あんなに輝いて見えたものが 急に色あせてしまいます。
押し売りなんかしなくても 自分の能力はいずれ輝く・・・・・・
そう信じて 目前の小さな仕事に全力で取り組むこと。
きっと だれかが見ています。


倒れても 守るべきものがあれば
人はまた 立ち上がれる
そして闘い続ける勇気を手にすることができる
ほんとうに力尽きるのは
守るべきものを見失ったとき・・・・・・
ささやかな幸せの中に 失ってはならない
珠玉の輝きがある
時の流れに押し流されて ほんの少し
遠ざかる時間があっても
やがて気付く 忘れがたいその温もりに・・・・・・



あなたの手に 渡し忘れたものがありました 
今さら遅いということは承知していますが
受け取っていただけますか
あふれる情熱と 静かに燃える埋火のような想いを共有したあの頃
決して口に出せなかった一言がありました
・・・・・・あなたに出会えてよかった・・・・・・
人と人の出会いが人間を育ててくれるということを
あなたに教えてもらったような気がします
この年になって 少し気恥ずかしいのですが
ほんとうに感謝しています
「ありがとう」の言葉を添えて 今あなたへ
渡し忘れた手紙を 届けます


 年を重ねるということは
 今まで正義だと思い込んでいたことの中に
        計算や妥協が見え始めること・・・・
許せないと思う他人の言動の背景に 
       その人なりの必然があったことに気付くこと・・・・
夢は見るためのものでなく
 生きるために不可欠な道標なのだと思い知らされること・・・・
見せ掛けの美しさとは別に
 何の飾りも持たない裸の美しさがあることに気付き、
息を呑むこと・・・・・
折り合いをつけるために 
    我を抑えて引くことが無理なくできるようになること・・・
踏みつぶしそうになった小さな虫を
    そっと横に置いてやれるようになること・・・・
過ぎ去った年月の分だけ
   自分が豊かになれたと 心から思えるようになること・・・・
自分を取り巻く人との距離が
      ほぼ 間違えずに測れるようになること・・・
愛しいものとの別れを じっと耐えることができるようになること・
愛や恋に憧れる若者が
        いとおしく思えるようになること・・・・・
なりふり構わず 一生懸命生きている人が
     素敵だと思えるようになること・・・・・
老いは否定しながらも どこかに受け入れる場所を
   作り初めている自分に気がつくこと・・・・・・
年を重ねるということは
  人としてやわらかくなっていくことなのかも知れない



今年もまた 梅の花が咲きました。 
鉛色の空の威圧感を跳ね飛ばすかのように
ぽっこり 一つ 咲きました。
まだ北風は頬を刺す この時期に
まるで 時を駈ける先駆者のように誇らしげに
咲いています。
時折差し込む日差しの中に
春のかすかな足音を聞き分けているのでしょうか。
寒風や嵐にさらされても 一足早く咲いた
おのれの決断を疑うこともなく 逍遥としてそこに佇む意思・・・・
後から開くであろう 仲間のつぼみの傍で
たった一人で生きようとする その孤高の姿に
今年もまた逢えました。



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