手紙


その後 元気でやってるかい
ときおり 今ごろ君はなにをしているんだろうと
流れる雲を見上げながら 思い出しています
君の口癖だった自分探しの旅も どうやら
終着駅に近づいてきたようだね 
こんな生き方しかできないからと 酒の力を借りて
自嘲めいた話をしてくれたけど
俺は それでいいんだと思う  君らしくて いいじゃないか
幸福のなかで見る夢は 夢じゃない
逆境の中でこそ 希望が本物の夢になるんじゃないのかな
もっともっと 君らしい君であり続けてくれ 
みっともないなんて言わずに・・・・・
大したことはできないけど 陰ながら健闘を祈っている
友と呼べる数少ない人間の一人として
君と同じ土俵で 人生に向き合えたことを 
誇りに思っています・・・・・・・





一流とは 他の追随を許さぬ輝きを持つこと
一流の人間とは 他の者にはない 
その人だけの薫り高い物語を持つこと・・・・・
自分だけの物語を創る努力は 続いているか
その道の あまりの遠さにあきらめかけてはいないか
派手なストーリーや 面白おかしい装飾はなくとも
これだと決めた終局に向けての 絶えざる練磨と奮起は今もあるか
夢と言う美名を免罪符にして しばし手を休めてはいないか・・・・・・
結末まで付き合ってくれる「わたし」という読者がいるかぎり
その読者をうならせる物語を 創り上げようじゃないか
完成記念の褒美は 「我ながらよくやった」の一言でいい
自分だけの物語を創る営みは 今も続いているか・・・・・・・・




手に入れたその日から 輝き始める想いがある
こんなはずではなかったと 首をかしげる前に
思い起こすべきことがある
あの頃 抱いていた夢は 本当に「わたし」のものであったのか
枯渇した魂に 真に潤沢な潤いを満たすものであったのかと・・・・・・
気まぐれに思いついたことは 気まぐれに消えていく
何度も経験しているはずの この原則を
もう一度 わが身に引き寄せてみることだ
ほんものは 手中に収めたその日から
自分の一部となり 生きる目標となる
輝きや値打ちは 黙っていてもあとからついてくる




私が手に入れたいと思うもの・・・・・・・
それは対象との距離を目測できる正確な目です
あらゆる人やもの、ことと自分との間の距離を正しく計ることは
私が 私らしく在るための方向舵でもあるのです
目測を誤ると 予想もしない方向へ流され
気が付けば 「こんなはずではなかった」・・・・・・・
残念ながら そんな目をもつことは簡単なことではありません
しがらみや常識、納得できない慣習という不純物が障害となり
目測を誤る事態はこれからも起こりそうです
間合いを正しく計り 緩急自在の構えで備えるという目標は
当分 あるいは生涯の課題かも知れません
正しい目測ができる眼を 心眼といいます




空腹を満たす糧は 自分で手に入れなくてはならない。
心の隙間を埋める充填剤は 自ら求めて探すしかない。
待っていてもやってはこない相手なら
こちらから足を運ぶ・・・・・・・
それだけのことだが 足の重さにうろたえている間に
目先に現れる手軽な代用品に手が出てしまう。
本当にほしかったのは こんなものではないと思いつつ・・・・・・・



 連続した時間を便宜上切って
今日と明日という日を決めている。
だから、今日がなければ明日もないというのは
人間が作り出した最も古典的な人生訓であろう。 
たとえ何が待ち受けていようと
明日という日のその正体を見るためには
今日を乗り切らねばならない。
わたしにも あなたにも共通した 地表の掟である。



自分の歩んできた道に 
どんな値打ちや意味があったのだろうと
心細くなるときはありませんか。
やるだけのことは やってきたはずなのに
なぜか確かな手ごたえがつかめない・・・・・・・
それはきっと
あなたが「集めたもの」だけで見ようとしているからです。
あなたが「与えたもの」を物差しにしてごらんなさい。
わたしがわたしであったという 存在証明は
与えてきたものの中に まちがいなくあるはずです。

   


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